| 吉村昭の優れたドキュメントタッチは、膨大な資料、最後の最後まで事実を捜し抜くその執念が光る作品が多い。彼は、戦時中の色々な事実をも丹念な資料の読み込みから優れた作品を多く発表している・・、潜水艦での事実「総員起し!」「戦艦陸奥」等々・・。
で、「破獄」の主人公は、その後、人柄の素晴らしい看守と出会い、生き方を変えることが出来、模範囚人として真面目に勤め、刑期を終え、その看守の家を尋ねた描写がある。
破獄の主人公は、看守に対しての反抗だったのである。つまり本人は理屈は分からなくとも、看守の横柄さ、横暴さ、つまり当時は囚人を人として扱わなかった、国家権力との対峙だったのである。
看守の感想がある。「刑期を終えた彼をみてると、なんの変哲もない一般の男だった。この男が当時、日本を震え上がらせた破獄の王者とは、誰が見てもわからないだろう・・」
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