| 昨日、隣の母親が私の家に泣きついてきた。文字通り目を真っ赤にし、泣きながら事の次第を言うのである。かいつまんで言えば、一番下の4歳になる娘が近所で飼ってる犬から、額の部分を大きく噛まれて病院に運ばれ、医者から金持って来い、と言われて今家に帰ってきたもののお金が無い、と言うことである。つまり、お金を貸して欲しい、というのだ。私のバランガイに金を持ってそうな人間は私一人である。
私はすぐさま実況検分に言った。噛まれた現場にはかなりの血痕の後が見られた。犬は家の土間に、事の重大さが分かったかの如く、しっぽが完全に垂れさがったまま、多分強く殴られたのか息をゼーゼーして立っていた。
この犬は時々小さな子供を噛むことで有名だったらしい。近所の住民が10人ほど立ち話をしており、飼い主も一緒になって話をしていた。兎に角金が要る、日本人から借りろ、と言うことらしい。犬の飼い主にしたって貧乏だし、日本なら飼い主の責任を問われて全額負担と言うことが常識だが、こちらではそんな事は通じない。それにしても大体、子供を噛むような犬をどうして放し飼いにしているのかも甚だ疑問に思った。
母親の気持ちも十分に理解できた。こちらの犬は予防接種なんて殆どしていないから狂犬病も心配だし、女の子だから顔に傷跡が出来たら将来が心配だ。全額幾らと言われたの? と聞いたら12000ペソ(約24000円)だと言う。これはこの国のお巡りさんの1ヶ月の給料分だ。
さて、はたと困ってしまった。全額貸してもいいと思ったが、私一人が貸し手になれば「あ〜、やっぱり日本人は金持ちだ」とことさら言われ兼ねない、貸したって戻っては来ない。そう考えて、財布を見たら1500ペソ入っていたので、私は彼女にこう言って金を握らせた。
大きなお金なので、いくら私だってすぐさま全額は用意できない。ここに1500ペソある。これは返さなくっていいから、足りないお金は旦那や親戚と相談して何とかして欲しい・・・。
今日、その後の経過を聞いたら娘は命に別状はなく現在入院中だそうである。飼い主にも責任がある、と言う考え方も存在した。そして、バランガイのドネーション(寄付)も始まるだろう、と言うことだった。
それにしても、何の罪もない4歳の可愛い娘の額に大きな傷跡が残るのだろうと思うと憂鬱になってしまった・・・。
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